養老、中沢、谷川 for 河合隼雄

昨日の続き、小樽で行われた河合隼雄をしのぶ会を振り返ります。
正式なイベント名は

「絵本・児童文学研究センター 創立20周年記念
 第13回 文化セミナー 
   みみをすます —河合隼雄の遺したもの— 」

はじめは養老孟司氏、中沢新一氏の順で講演があり、
最後は谷川俊太郎氏を交えての鼎談の構成です。

たぶん主催の会が河合氏追悼本などどこかで発表しない限り
ここでしか読めない当日の模様をまとめました。

「河合隼雄さんをもっと知りたくなる」きっかけになれば幸いです。
転載禁です。頼みます。




歯に衣を着せぬ物言いで知られる養老孟司さん。
河合さんとは“華厳経研究会”でご一緒だったそうです。


今回の「みみをすます」というイベントタイトルは
河合さんが特に好きだったという谷川さんの詩にちなんだもので


養老さんは
「河合さんのことをよくわかっておられる方がつけたもの」とほめ、

そのうえで
「みみをすます、なんてもう死語じゃないですか?」と本題へ。

見たり、聞いたり、におったりという私たちの感覚はつねに
「違うもの」をとらえているんだそうです。

「くさい!」と感じるのも
それまでその空間になかった違う匂いをとらえているから。


そして、感覚は「違う」と言い続ける一方で、
脳の意識は「同じ」と言う。


養老さんはその日の観客席を見て「いろんな顔があるわい」と
感覚でわかっていても
意識は「小樽のひとびと」と理解するんだそうです。


そして意識が「同じもの」とする最たるものが「私」だと。

養老さん曰く、私たちはしょっちゅう意識をなくしている、と。
なのにまた我に返って同じ自分に戻ってこれるのは、意識の働き。

そのあともちょっと難しい話が続いたんですが一気にまとめますと


養老さんは「違い」を認める感覚が消えつつある
この現代社会に非常に危惧感を抱いていました。

「世界と連帯してテロリストと戦う」という新聞見出しに
テロリストは世界に含まれないのか、と愕然としたと云います。

同じものしか認めない社会のいんちきくささ、みたいなものを
「きっと河合先生も感じておられてたと思います」と言って
講演をしめていました。




次は中沢新一氏が登場。
「はじめて話すかも」という河合氏との個人的な関わりを
たっぷりと語ってくれました。

以下、簡単に。


カソリック系の大学に招かれて講演をした中沢さん。
今から20年前のことなもので氏も若く、ついエキサイトして
話はとうとうアンタッチャブルの領域、「イエズス会批判」へ。

会場は水をうったように静まりかえったそうです。

さすがにこれはマズいかと落ち込んで控え室に戻ったところ
同じく講師として招かれていた河合さんが中沢さんに一言。

「あんたバカやな」と(初対面)。

「あんな本当のこと言うたら、アンタがはりつけになるで」と。

「ボクは生まれてから一度も本当のことなんか言うたことがない。
 あんた、ボクとつきあおう。
 そしたらあんたも世渡りできるようになるから」


オウム批判で中沢さんが孤立無援になったときも
河合さんは違います。

突然電話をかけてきて、一連のバッシングのことには触れずに
「ボクと仏教の対談をしませんか」と。

用件だけすませると電話を切って、
対談当日も余計な慰めはいっさいなかったそうです。

「河合さんは僕の恩人、最高にダンディーな日本人です」
聞いててちょっと泣けました。





さあ、そして谷川さんを加えての鼎談です。


谷川さん「僕は講演もしないし、鼎談のコーディネーターなんて
やったことがないんですが」と心もとない感じ。

そりゃそうだ、詩人なんですから。
河合さんにまつわることだから引き受けたのでしょう。


先ほど語られた河合さんの思い出「本当のことを言わない」に
谷川さん、「詩なんて嘘八百ですから、僕も嘘つき。
だから河合さんともつきあえたのかもしれません」と語ります。

日本で最初のユング派分析医になり、
ユングが提唱する「意識下」を探っていた河合さんに

「言葉にならないところを相手にするのは
(精神分析も)詩も同じ」とも。

さらに谷川さんは、最近とみに尋ねられるようになった
「この詩のメッセージはなんですか?」という問いかけは
「こっちがカッとなる質問なんです」と告白します。

それをスラスラ言葉にできるようなら詩なんか書いてないと。

でも面倒なんで「愛です」とか答えると相手は納得して
「詩のことはすっかり忘れちゃう」 耳が痛い話です。

養老さんも学生たちが「で、どうしたらいいんですか?」と
すぐに聞いてくるのであきれてしまうそうです。





鼎談は終始、谷川さんが子どものような質問を2人にぶつけ、
中沢さんが河合さんの思い出に触れながら答える。

養老さんはわかりやすく脳や感覚の仕組みを解説しながら
最後に必ずオトす“綾小路きみまろ”作戦。


臨床での河合さんは実にすぐれた精神分析医で
「あいづち」が絶妙だったとか。

精神分析は相手の話に「どこで句読点を打つか」が肝だと。


これ、私にはとても興味深い話でした。
日頃の会話にも(特に取材なんかにも)共通しますよね。

聞き上手とはうなづき上手なり。

思うに、私が人生で出会った聞き上手はほとんどが女性です。
男性は“オレ話が長くてくどい”のが普通じゃないでしょうか。

相手にたまに話をふっても、次に自分が答えるのを待っている。
「あ、こっちの話聞いてないな」と手に取るようにわかります。

この現象を解説してくれる内容も鼎談では語られましたが、
知りたいひとには直接会ってお話します(笑)。長くなるから。



谷川さん、なれないコーディネーター役に
「コーディネートしにくい」とか「困った」とか
沈黙が訪れるたびにこぼしてましたが、最後は

「河合さんは生きていたら必ず
 “老賢人”と言われるようになっていただろうし

 今日のお2人もボクが知らないことをいっぱいご存知の賢人です。
 これからもよろしくお願いします」

という独特のまとめで鼎談に幕を下ろしてました。

会場は大きな大きな拍手に包まれてましたよ。
いやあ、河合隼雄さんのお人柄がしのばれる素敵な会でした。

by miminibanana | 2008-11-24 11:04 | レポート | Comments(2)

Commented by otaruneko at 2008-11-26 15:42 x
講演の詳細をアップしていただき、ありがとうございます。

佐藤さんの言葉たちと私の想像力で、かなりなところまで頭の中で再現できているような気がします。再生時間7分くらいですけど。
実際は、3時間強ですか。

谷川さんの独特な進行で、会場もさぞかし和やかだったことでしょうね。
谷川さん、今回は詩をおよみになりましたか?
書きたいことがありすぎます。お会いしたときに詳細お話しましょう。
Commented by miminibanana at 2008-11-26 23:56
読んでもらってよかったー。
ほとんどotarunekoさんピンポイントに捧げた
レポートでした(笑)。

そう云いながらもこうやって書くことで
自分のなかでも整理できた気がします。

もったいないのでいつまでも人に話すことで
覚えておきたい鼎談でした。