酒井広司展「そこに立つもの2」ギャラリートーク

8/29土曜。

昨日行ってきました。

札幌在住の写真家、酒井広司さんの
個展「そこに立つもの2」のギャラリートーク。

トークのお相手は
同じく札幌在住の写真家、露口啓二さん(写真左)。

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酒井さんは1960年北海道の余市町生まれ。
露口さんは1950年の徳島県生まれ。

お二方とも広告や雑誌等で活躍されるかたわら
作品づくりに専心。

北海道を代表する写真家のお二人です。

露口さんは昨年の札幌国際芸術祭の参加アーティストにも
選ばれています。


このお二人の写真に惹かれる人は多く、かくいう私もその一人。

ギャラリートークの聞き手のなかには
若手や中堅のカメラマンも2、3人見かけました。

わかる。わかる。この御大二人(笑)が
写真について語るなんて機会、めったにないですものね。

というわけで長くなりますが、昨日のトークをレポートします。

あ、ちなみにこれは私的レポートで、がんがん編集しています。
録音したものの再現ではないことをお断りしておきますね。








●露口さんの酒井評は「ベッヒャーに似て非なる独創性」

8/28金曜18:30から「ギャラリー創」にて始まりました、
酒井広司さんと露口啓二さんのギャラリートーク。


「僕たちは20年来のつきあいで、
 同じ時代に札幌で写真を撮ってきました」
 と口火を切ったのは酒井さん。

「写真を言葉で語るのは難しいけれど、
 今日はなんとかそれをやっていこうと思います」

その言葉を受けた露口さん。
「じゃあ、先に
 僕が酒井さんの写真をどう感じているのか、お話しますね」 

聞きたい聞きたい!

「僕が真っ先に思い浮かぶのは、ドイツのベッヒャー。

 給水塔や溶鉱炉など戦前の建築物を正面から
 モノクロで撮ったベッヒャーに近い、という印象です。

 ただし、ベッヒャーと酒井さん、形式上似たところはありますが、
 酒井さんの目指すところは違う。

 そこに酒井さんの独自性がある、と考えています」


ベッヒャーとは、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻のこと。

夫妻が1960年代に残した多くの作品は、
写真史だけでなく「コンセプチュアル・アート」の流れでも
高く評価されているそうです。

「酒井さんの写真を見ているとベッヒャーのように
 現代アートは相手にしないぜ、
 というような“つっぱり”を感じます」(笑)

これを聞いた酒井さん、
「僕も(自分の作品は)20世紀の写真だと思っています」と返答。

このとき、「ものとしての写真を残したい」という言葉が
酒井さんの口から出ました。ものとしての写真。


●銀塩の粒子は物質、デジタルのドットは記号

「デジタル作品はどうですか、撮ろうと思わない?」
 と露口クエスチョン。

酒井さん:
「僕もデジタル(カメラ)は使っています。
 2000年にCanonのD30を買いました。

 仕事でも使っていますし、iPhoneでも撮る。
 ただ、70年代からずっとフィルムで育っていると、
 〈なにか〉足りない」

露口さん:
「確かに。銀塩(写真)は粒子でできていて
 どこまで拡大しても粒子が残る。

 デジタルはドット、信号なので、物質ではない。

 この銀塩とデジタルの差異を
 僕らはずっと考えていかなきゃいけないと思う」
 
ちなみに「銀塩(写真)」とは、
ゼラチンベースに塩化銀(銀塩)の化合物をのせた
フィルム構造からそう呼ばれるんだそうです。知らなかった。

露口さん:
「デジタルの時代になり、〈写真の居どころ〉がまるで違う。

 ものだった写真がいまはモニターからモニターに飛び交う。
 その現象はこれからますます強くなる」

酒井さん:
「ちょっと極端な例ですが、
 3.11のときに流されたアルバムの写真が
 修復されて持ち主のもとに返る、なんていうのは象徴的。

 写真がただの紙じゃない。ものとして置かれている」

(ただ総じて酒井さんは
 デジも銀塩も「どっちもあり」というお考えでした)


●酒井さんの「北海道三部作」、露口さんの「地名」シリーズ

「じゃあ、写真ってなんだってことですが」

ああ、露口さんがとてつもなく大きなテーマを
私たちに投げかけます。

(批評家ロラン・バルトの写真論を引き合いに出してましたが、
 そこを解説していくと長くなるのと、
 私自身の理解が浅いので、ごめんなさい、割愛します)

酒井さん:
「写真には〈目に見えないなにか〉が写っている。
 見えないものが写真そのもの」

露口さん:
「現実と写真はイコールじゃない。
 肉眼の視覚と瞬間を捉えた写真とにはズレがある」

酒井さん:「指し示すものが写真である、ともいわれています」
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ここで酒井さんの「北海道三部作」シリーズをご紹介しますと、

・ひとつめは今回の個展のテーマである「そこに立つもの」。
 道内を回っているときに目についた「ちょっとした存在」を
 収集しています。

・二つ目は「偶景」(ぐうけい)シリーズ。
 これは作品の命名方法が独特で、一枚ごとに
 撮影日時(西暦の年月日何時何分まで)と
 撮影場所の北緯と東経を表した全21ケタの数字がついています。

・そして三つ目は、ポジフィルム(カラー)で撮る「北海道の旅」。


他方、露口さんには「地名」という連作があります。
(平取町の沙流川アート館で8/30まで展示中。素敵でした)

北海道の地名を手がかりにして選んだ場所に
時間をあけて訪れ、二度目のシャッターを切る。

その二枚を並べ、公用の日本語(漢字)と
その原義であったはずのアイヌ語の音(ローマ字)を併記する。

その二枚の差異と、二つの地名のズレに着目した
露口さんならではのシリーズです。


ふと目に止まった対象物と出会う酒井さんと
その土地を目指して訪れる露口さん。

まるで正反対のアプローチ。面白いですね。


「故郷である北海道という土地から〈なにか出るもの〉を
 写真というメディアで形にしたい」という酒井さんに、

ここでまたまた露口クエスチョンです。


「酒井さんは、風景の何にインパクトを感じるの?
 (作品に)“ここで撮ろう”という意志があるよね。
 なんでここで(シャッターを)押すんだろう、と思う。
 僕はそういう気持ちがないから」(笑)

酒井さん:
「いや、僕もたいして考えて切ってるわけでは(笑)。

 風光明媚な場所は誰が見ても目に見える形がある。
 僕はそっちではなくて形にならないところというか…。

 自分の要素を減らしていくと、
 形にならないところがなんとか形になる。
 
 それを可能にしてくれるのがこの広大な、
 人気のない北海道なのかな、という気がします」

そしてとうとう酒井さんからこんな一言が。

「北海道をあらわすことが、
 写真をあらわすことになり、
 僕をあらわすことになる」  


写真とリアリティーの関係、
そして撮る側の「私性」(わたくしせい)などのすべての要素が、
この一言に集約されているように感じました。


●目で考えてきた酒井さんがシャッターを押すとき

子どものころから
ご近所を勝手に撮り歩いていたという酒井さん。

「からだの外側の世界をまず見に行く、目で考える」習慣が
酒井さんにこの仕事を選ばせたのかもしれません。


酒井さんと露口さん、
というかカメラに関わっている人は皆、
自分が気になるカメラマンが
「何を基準にシャッターを切るのか」を知りたがっています。

この日の酒井さんも露口さんも
その基準を「これ」と描写することはありませんでした。


そんなお二人の姿に私は以前、
小樽で開かれた講演会で詩人の谷川俊太郎さんが

「一番いらっとする質問は、
 “この詩はなにをあらわしているんですか”という質問。

 それを一言で言えるようなら詩なんて書いてません」

といっていたことを思い出しました。

わはは、そうだよなー。

この谷川発言は写真や他の表現にもあてはまりますね。
(ただしライター業は決して
 「なんともいえない」とは書いてはいけない。
 そこをどんな形でも書くことでギャラをもらっているから)


という感じで約1時間。

「写真を語ろう」と試みる
酒井・露口トークが幕を下ろしました。

ああ、おなかいっぱいだ。勉強になりました!


●「窮屈なもんですよ、写真は」排除する痛みとともに


個人的に面白かったのは露口さんの構図に関する発言。

「窮屈なもんですよ、写真は。
 本当は全部入れたいんだけど、入らないからしょうがない。
 (フレームから)排除する痛みはつねに感じています。
 しょうがない、でやっている」(笑)

うーん、深い。
恐れ多いけど、ちょっと文章とも通じると思いました。


あと、酒井さんがご自身のモノクロ写真をさして

「懐かしい、というキーワードが一番あうかもしれないけど
 正確ではない」といったところも。


私もそう思う。酒井さんの写真は
ノスタルジックな「懐かしい」だけじゃないんだよなー。

個々の思い出が土地の記憶になるんだけど、
もっとこう、消えていく感じ。

スウィートよりはビター寄りで、そこが好きなんです。


いやあ、ものすごく長くなってしまいましたが、

このへんで酒井広司さんの個展「そこに立つもの2」
ギャラリートークの私的レポートを終わります。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この日会場に来れなかったけど、実はとっても行きたかった!
という方々、きっと多いと思います。

写真という表現だけにとらわれない、
示唆に富んだお話でしたので、ここに残すことで
たくさんの方に読んでいただけたらうれしいです。

なのでリンクや拡散、大歓迎です(報告も結構です)。


このレポートの内容確認もしてくださった
酒井さん、露口さんのお二人、
このような貴重な機会を用意してくださった
ギャラリー創さんにも心から感謝申し上げます。

本当にありがとうございました。

by miminibanana | 2015-08-29 13:49 | レポート | Comments(0)