「横道世之介」と「人生はビギナーズ」感想

2/11月曜、おはようございます。

吉田修一著「横道世之介」(文春文庫)読了。

主人公世之介の青春ストーリー、なので
軽く読めるなーとあなどっていたら
そこはほれ、「悪人」の吉田修一ですから。

のほほんとしながらも
人生の真理に触れていく世之介ののびやかな生き方に
あっちゅうまに魅了されちゃいました。

たとえば、同じアパートの住人が
「彼女とひどい別れ方をした」というくだり。

世之介の彼女が「ひどい別れ方とはいったいどういう別れ方か」と
訊いてくるので、彼女の手前、大人ぶりたい世之介は
「相手をひどく傷つけたのさ」と答える。

そのあと、世之介は考えるんです。誰かを傷つけるってどういうこと?

そしてこの文章が続く。

  ふと横を歩く祥子が目に入った。
  ああ、そうか、と世之介は思う。誰かを傷つけたことがないんじゃなくて、
  傷つけるほど誰かに近づいたことがなかったんだと。

しえーー! こ、ここで書いてても、
恥ずかしくてもんどりうっちゃうような内容ですが、
で、でも、わ、若いってそういうことですよね!

こ、これはちょっとマジメなところの抜粋ですが、
とにかく全篇にわたって、
誰もが思い当たる節のある青春のアヤマチやシンジツが
吉田修一のやさしくユーモラスな目線で綴られている「横道世之介」。

年下の友達に送りたくなる一冊でもあり、

「そんなことはもう忘れたよ」という
私たちの心も軽くしてくれる一冊です。


他方、映画「人生はビギナーズ」は75歳の父と38歳の息子の物語。
母親はもう他界していますが、あるとき、父が告白します。

 “I am gay.”

す、すごくね? ここ、こんな脚本、よく思いついたな!と驚いていたら
なんと監督マイク・ミルズ本人の実体験らしいです。二度ビックリだ!

病床に伏しながらも、若い恋人やゲイコミュニティの仲間に囲まれて
ようやく自分らしい生き方を楽しみ始めた父親のハル。

父の告白に度肝を抜かれつつ、看病する息子は
「じゃあ、なんで結婚したわけ? 愛って? 結婚って?」
という不満やら疑問やらを抱えながら、
親を亡くすという、人生で避けきれないエックスデイを迎えます。

こう書くと深刻で暗い映画に思われがちですが、
いやいや、そうではありません。

ゲイに目覚めた父親がいきいきと変わっていく姿や、
ひっこみがちな息子が謎めいた恋人と惹かれ合っていくさまが
テンポよく、やわらかなタッチで描かれている
軽妙洒脱なヒューマンドラマなのでありますよ。

(犬好きにはたまらない、かわいいワンちゃんも出てきます)

カミウングアウト後、父親は
息子に内緒で恋人探しの広告を新聞に出すんですね。

冷静に考えると、70代という、
“恋人市場”では明らかに不利な自分を売り込む場に
はたして彼はどんな文章を書いたのかーー。

気になる方には、ぜひ本編で確かめていただきたいです。

「横道世之介」が晴天のもと、
ふかふかに乾いたシーツの気持ち良さを届けてくれる
青春ストーリーだとしたら、

「人生はビギナーズ」は
肌寒い曇り空を湯気が立つコーヒーとストールで
ぬくぬくと過ごす喜びとほろ苦さを教えてくれる人生指南の物語。

どちらも毎日を生きるための勇気が詰まっている、と私は受け止めました。

by miminibanana | 2013-02-11 10:54 | おすすめ | Comments(0)