五十嵐威暢さん講演会レポート
札幌グランドホテルで聞いた
彫刻家・五十嵐威暢(いがらし・たけのぶ)さんの講演会の感想、
というかレポートをここに残しておこうと思います。
公式プロフィール&ご本人のお話によると
1944年に北海道の滝川市で生まれ、
小学校卒業までかの地で育った五十嵐少年は
その後家族とともに東京に移り、長じてデザイナーに。
ニューヨーク近代美術館のカレンダーデザインや
サントリーホール・カルピスのVIデザインなど
後世に長く伝えられるような代表作を生み出し、
国際的にも広く知られる存在になりました。
それが1994年には彫刻家への転身を決意して
アメリカのL.A.に移住(このとき永住権も取られたそうです)。
「多いときは16人いた」アシスタントたちに
囲まれる制作環境から一転。
“一から自分ひとりで作り上げる”創作空間に身を投じます。
講演会では「つくる旅が続いている」というタイトルのもと、
五十嵐さんが歩んできた創作の道のりを作品の制作工程や
完成版を写したスライドともに振り返りました。
以下、その内容を私の個人的な感想も交えて
かなり編集してお送りしますね。
長くなるので一度たたみます。
ご覧になりたい方は「続きを読む」をクリックしてくださいな。
●「つくる」ということは
五十嵐さんにとって、つくるということは遊ぶこと、
理解すること、考えること、コミュニケーションすること、
そして、生きること。
何をつくるか考える。素材のことを理解する。
どんな風に組み立てるか考える。
一緒につくる仲間とコミュニケーションをとりながら…。
す、すごい。考えてみればその通りですね!
ものづくりというと、俗物の私なんぞはすぐ
出来上がる「もの」に意識が奪われがちですが、
過程もすべて意味があり愛おしいものだったんだ。
そう気づかされました。
●なにをつくりたい?
美しいものをつくりたい。
美しい環境をつくりたい。そして、美しい日常をーー。
「僕はギャラリーの方には申し訳ないけれど(笑)
アートをギャラリーや美術館に展示する、という考え方よりも
生活空間自体がアートになればステキだな、と思っています」
続けて、
自分のためにつくる
他人のためにつくる
世のためにつくる
という自分の中の原動力を明かしてくれました。
●デザインはシンフォニー。彫刻はジャズ。
デザイナー時代は自分のオリジナル作品以外は
通常クライアントがいますから、
コンセプトやテーマ決めからものづくりが始まります。
コンセプトから始まる総合的なプランニング。
「デザインはシンフォニーみたいなものなんです」。
ところが50歳から始めた彫刻は「アドリブ」の世界。
ジャズ演奏には Improvisation といわれる即興がありますが、
彫刻もまさにそれと同じ。
「僕には18年間コンビを組んでいる
アシスタント(女性)がいます。
彼女に働いてもらうためには、
彼女の3人の子どもたちの面倒は僕がみる(笑)。
子どもたちの作品にはプランなんてありません。
でもどれも最高ですばらしい。
僕はそれをマネしているだけなんです」。
なるほどー。
子ども時代にしか享受することが許されない感覚を
大人になっても手に入れることができる人、
それが芸術家なのかもしれません。
●7つの「しない」
「即興のものづくり」話はさらに続き、
五十嵐さんには「7つの“しない”」があることも
この日教えていただきました。
スケッチしない/イメージしない/
やり直ししない/(できかけのものを)棄てない/
順番を変えない
(五十嵐作品は細長い角材状の粘土に模様をほどこしたものを
幾層にも積み上げた壁状レリーフが多く、
よほど安全性が危険視される以外は
途中で順番を入れ替えたりしないそうです)
作業をしない
(スケッチやイメージがあると
そこに向かった作業になってしまう)
…というようなことを積み重ねて行くと
“イメージ通りにいかなくてガッカリ”がないので
「失敗しない」(失敗にならない)。
「いつも大成功で終わるのが僕の仕事の特徴です」と語り、
ニッコリ微笑む五十嵐さん。うーん、すごい境地だ。
そして最後は
「あそぶ、つくる、くらす。これをなんとか一生やりとげたい」
という言葉でお話を締めくくりました。
●北海道で観る五十嵐作品
この日聞いたお話を
私の「自分ごと」として置き換えるのはとても恐れ多いですし、
実力的にもそんなことは逆立ちしたってできませんが、
私個人的には
「こういうものづくりをしている人がいる」
そして「その人の作品を評価し、愛する人たちがいる」
という事実に(勝手に)希望を見出している自分がいます。
うまく言えませんが、五十嵐さんの静かな語り口を聞いていると
まるで水や樹木に向き合っているような心持ちになるのです。
幸運にも北海道に暮らす我々は、
五十嵐さんの故郷である滝川や新十津川町、札幌で
五十嵐作品を見ることができます。
下のラインナップを見て、
「えっ、普段通勤や買い物途中で見かけるあの作品が?」
と驚かれる方もいるのではないでしょうか。
今度じっくり五十嵐さんの作品を観に行ってみませんか。
道内の代表作はこちらです。
・滝川市一の坂西公園の高さ21mの鉄の彫刻「愛称:ニョキニョキ」
・札幌駅の星の大時計、JRタワーのロゴマーク
・大通BISSEのエントランスに浮かぶ木の彫刻「sky dancing」
・札幌駅パセオ地下広場にある
幅18mのテラコッタの壁面彫刻「テルミヌスの森」 など。
・北海道新十津川町の旧吉野小学校を改修した
自身のアトリエ兼ギャラリー「かぜのび」は
5月~10月の期間一般公開中。
この夏行ってみようかなあ。
www.takenobuigarashi.jp
以上で2014年5月29日(木)に札幌グランドホテルで行われた
彫刻家・五十嵐威暢さんの講演会レポートを終わります。
実は順序が逆になりましたが、会場となったホテルの本館1階
「グランビスタギャラリー サッポロ」では
五十嵐さんの個展「記憶のかたち展」が
7月22日(火)まで開催されています。
時間は11:00~19:00まで。
縦3m×横20mなどの大作で知られる五十嵐さんが
プロジェクトの合間合間につくった
小さな粘土作品を観ることができます。
緑から蒼に至るまでの釉薬の絶妙な色の変化や
故郷の自然にインスパイアされた有機的な造形に魅了されます。
詳細はこちら。
http://www.grand1934.com/gallery/art/igarashi_201405.html
長くなってしまいましたが、
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
こういうレポートは自分が思い出すきっかけにもなるので
これからも続けていくつもりです。
by miminibanana | 2014-06-01 17:41 | レポート | Comments(0)