五十嵐威暢さん講演会レポート

忘れないうちに5/29木曜、
札幌グランドホテルで聞いた

彫刻家・五十嵐威暢(いがらし・たけのぶ)さんの講演会の感想、
というかレポートをここに残しておこうと思います。

公式プロフィール&ご本人のお話によると

1944年に北海道の滝川市で生まれ、
小学校卒業までかの地で育った五十嵐少年は
その後家族とともに東京に移り、長じてデザイナーに。

ニューヨーク近代美術館のカレンダーデザインや
サントリーホール・カルピスのVIデザインなど

後世に長く伝えられるような代表作を生み出し、
国際的にも広く知られる存在になりました。


それが1994年には彫刻家への転身を決意して
アメリカのL.A.に移住(このとき永住権も取られたそうです)。

「多いときは16人いた」アシスタントたちに
囲まれる制作環境から一転。

“一から自分ひとりで作り上げる”創作空間に身を投じます。


講演会では「つくる旅が続いている」というタイトルのもと、

五十嵐さんが歩んできた創作の道のりを作品の制作工程や
完成版を写したスライドともに振り返りました。

以下、その内容を私の個人的な感想も交えて
かなり編集してお送りしますね。

長くなるので一度たたみます。

ご覧になりたい方は「続きを読む」をクリックしてくださいな。



●「つくる」ということは

五十嵐さんにとって、つくるということは遊ぶこと、
理解すること、考えること、コミュニケーションすること、

そして、生きること。

何をつくるか考える。素材のことを理解する。
どんな風に組み立てるか考える。
一緒につくる仲間とコミュニケーションをとりながら…。


す、すごい。考えてみればその通りですね!

ものづくりというと、俗物の私なんぞはすぐ
出来上がる「もの」に意識が奪われがちですが、

過程もすべて意味があり愛おしいものだったんだ。
そう気づかされました。


●なにをつくりたい?

美しいものをつくりたい。
美しい環境をつくりたい。そして、美しい日常をーー。

「僕はギャラリーの方には申し訳ないけれど(笑)
 アートをギャラリーや美術館に展示する、という考え方よりも

 生活空間自体がアートになればステキだな、と思っています」


続けて、

自分のためにつくる
他人のためにつくる
世のためにつくる  

という自分の中の原動力を明かしてくれました。


●デザインはシンフォニー。彫刻はジャズ。

デザイナー時代は自分のオリジナル作品以外は
通常クライアントがいますから、
コンセプトやテーマ決めからものづくりが始まります。

コンセプトから始まる総合的なプランニング。
「デザインはシンフォニーみたいなものなんです」。


ところが50歳から始めた彫刻は「アドリブ」の世界。

ジャズ演奏には Improvisation といわれる即興がありますが、
彫刻もまさにそれと同じ。

「僕には18年間コンビを組んでいる
 アシスタント(女性)がいます。

 彼女に働いてもらうためには、
 彼女の3人の子どもたちの面倒は僕がみる(笑)。

 子どもたちの作品にはプランなんてありません。
 でもどれも最高ですばらしい。

 僕はそれをマネしているだけなんです」。


なるほどー。

子ども時代にしか享受することが許されない感覚を
大人になっても手に入れることができる人、

それが芸術家なのかもしれません。


●7つの「しない」

「即興のものづくり」話はさらに続き、
五十嵐さんには「7つの“しない”」があることも
この日教えていただきました。

スケッチしない/イメージしない/
やり直ししない/(できかけのものを)棄てない/

順番を変えない
(五十嵐作品は細長い角材状の粘土に模様をほどこしたものを
 幾層にも積み上げた壁状レリーフが多く、
 よほど安全性が危険視される以外は
 途中で順番を入れ替えたりしないそうです)

作業をしない
(スケッチやイメージがあると
 そこに向かった作業になってしまう)


…というようなことを積み重ねて行くと

“イメージ通りにいかなくてガッカリ”がないので
「失敗しない」(失敗にならない)。

「いつも大成功で終わるのが僕の仕事の特徴です」と語り、
ニッコリ微笑む五十嵐さん。うーん、すごい境地だ。

そして最後は

「あそぶ、つくる、くらす。これをなんとか一生やりとげたい」

という言葉でお話を締めくくりました。


●北海道で観る五十嵐作品

この日聞いたお話を
私の「自分ごと」として置き換えるのはとても恐れ多いですし、
実力的にもそんなことは逆立ちしたってできませんが、

私個人的には
「こういうものづくりをしている人がいる」
そして「その人の作品を評価し、愛する人たちがいる」

という事実に(勝手に)希望を見出している自分がいます。

うまく言えませんが、五十嵐さんの静かな語り口を聞いていると
まるで水や樹木に向き合っているような心持ちになるのです。


幸運にも北海道に暮らす我々は、
五十嵐さんの故郷である滝川や新十津川町、札幌で
五十嵐作品を見ることができます。

下のラインナップを見て、
「えっ、普段通勤や買い物途中で見かけるあの作品が?」
と驚かれる方もいるのではないでしょうか。

今度じっくり五十嵐さんの作品を観に行ってみませんか。


道内の代表作はこちらです。

・滝川市一の坂西公園の高さ21mの鉄の彫刻「愛称:ニョキニョキ」

・札幌駅の星の大時計、JRタワーのロゴマーク
・大通BISSEのエントランスに浮かぶ木の彫刻「sky dancing」
・札幌駅パセオ地下広場にある
 幅18mのテラコッタの壁面彫刻「テルミヌスの森」    など。

・北海道新十津川町の旧吉野小学校を改修した
 自身のアトリエ兼ギャラリー「かぜのび」は
 5月~10月の期間一般公開中。
  
 この夏行ってみようかなあ。
 www.takenobuigarashi.jp



以上で2014年5月29日(木)に札幌グランドホテルで行われた
彫刻家・五十嵐威暢さんの講演会レポートを終わります。

実は順序が逆になりましたが、会場となったホテルの本館1階
「グランビスタギャラリー サッポロ」では

五十嵐さんの個展「記憶のかたち展」が
7月22日(火)まで開催されています。


時間は11:00~19:00まで。

縦3m×横20mなどの大作で知られる五十嵐さんが
プロジェクトの合間合間につくった
小さな粘土作品を観ることができます。

緑から蒼に至るまでの釉薬の絶妙な色の変化や
故郷の自然にインスパイアされた有機的な造形に魅了されます。

詳細はこちら。
http://www.grand1934.com/gallery/art/igarashi_201405.html


長くなってしまいましたが、
最後までご覧いただき、ありがとうございました!

こういうレポートは自分が思い出すきっかけにもなるので
これからも続けていくつもりです。

by miminibanana | 2014-06-01 17:41 | レポート | Comments(0)