真人間を誓えども

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」を見ました。
おんなごろしあぶらのじごく、と読みます。

北海道はめったに歌舞伎がかからないので
舞台を映像化し、さらに大きなスクリーンで楽しめる
「シネマ歌舞伎」はすごくありがたいのです。

今回は、2009年の歌舞伎座さよなら公演(ただいま修復中)で
片岡仁左衛門が当たり役である油問屋のバカ息子、与兵衛を演じました。

「油地獄」というタイトルどおり、一番の見せ場は、
与兵衛が同業者である油問屋の女房お吉を殺そうとする凄惨な修羅場。

追う与兵衛、逃げるお吉。互いに倒した樽からこぼれる油にまみれ、
すべり、のたうち、這いつくばる。

あがく手の先につかみたいのは、自分の命なんですな。

もちろん舞台で本物の油を使うわけにはいかないので
ふのりで代替しているそうですが、

そこに役者の力量が加わって、
ぬるりぬるりとすべるさまがなんとも不気味。

円熟味を増した片岡仁左衛門の狂気に見惚れました。
公式サイトの予告編はこちら。



この「女殺し」への導火線は、与兵衛の親による甘やかしで、
与兵衛は「自分可愛いさ」が肥大していくのを止められません。

一度は親のありがたさに涙し、
真人間になることを誓う自分がいますが、それも一瞬のこと。

やり直すには遅すぎるほど大きくなってしまった「自分可愛いさ」が
とうとう与兵衛の身のうちを食い破り、
まったく罪のないお吉に手をかけてしまう、という筋立てです。

…って、やだ! これって全然今も耳にする犯罪の動機じゃないです?

1709年に近松門左衛門が書き下ろした人間の業が
300年以上経った今も変わっていないことに戦慄を覚えました。ひー!

日本が世界に誇る伝統の歌舞伎、もっと見たくなりました。

by miminibanana | 2011-07-10 10:28 | おすすめ | Comments(0)